INTERVIEW

2021.08.04

注目される“リスキリング”!NECソリューションイノベータが取り組む現場育成

近年は、“共創”をキーワードに、企業の枠を超えて共通の目的を持った同志が共にプロジェクトに取り組む時代となりました。Produce Thinking Lab(プロデュース・シンキング・ラボ)の記事企画として、共創活動の重要な起点となる“事業プロデューサー”を育成する独自メソッド「プロデュース・シンキング」の研修プログラムを5ターム連続で導入していただいているNECソリューションイノベータにて事業開発領域の人財育成を担われている栗藤高信氏に、導入の背景や目的・今後の活用ビジョンについてお話を伺った。

栗藤 高信 氏

NECソリューションイノベータ/イノベーション推進本部 氏

1999年NECソリューションイノベータ入社。システムエンジニアとして主にBtoBtoCのWebシステム構築に従事。2006年に人財育成部門に異動。新入社員研修、全社研修企画等を実施。以降、部門異動しつつも一貫して人財育成に従事し、現在は事業創出部門の人財育成を担当している。 氏

■自社新規事業や他社との共創事業開始!育成方法を模索する中での出会い

栗藤氏:「プロデュース・シンキングを導入した当時、社内では「プロデュース」という単語はほとんど使われていませんでした。当社は主にシステムの受託開発を行なっています。驚かれるかもしれませんが、当時は直接取引ではなく、親会社であるNEC経由の案件が大半を占めている状態でした。まさに黙って口を開けていれば案件が降りてくるという状態だったのですが、社内では危機感を感じており、自分たちが事業主にならなければいけないという意識が芽生えていました。

私は、自社内の新規事業開発を目的に創設された“イノベーション推進本部”という部署に所属していて、現場を通じた人財育成を担当しています。組織として、共創事業や新規事業を推し進める人財像を明らかにして育成するというミッションを背負っていました。

その頃から徐々に社内で「プロデュース」というキーワードが出始め、私は当時、“音楽プロデューサー”の肩書きぐらいしか連想できなかったのですが、プロデュースというものを体系的に教えられる人を探していました。」

とても懐かしいですね。当時、私も共創プロジェクトで貴社とご一緒していたのですが、貴社の皆さんが“共創活動”をキーワードに、手探りでビジネスの機会を模索している時期だと感じていました。

栗藤氏:「共創といっても、地域おこし、企業同士の強みを生かしたパートナーシップなど、様々な取り組み方法があると思うのですが、正直、どこから手をつけていいかわからない状態でした。当社はシステムは作れるのですが、事業主ではないため、社内に新規事業を立ち上げるための知見がほとんどありませんでした。

私自身は、システムエンジニアからキャリアをスタートして7〜8年、プロジェクトマネージャーなどを担当してから、経営部門・育成側に回りました。エンジニア時代は、社内では珍しい当社直接案件で、就職・転職者向けマッチングサイトのWebシステム開発を担当していたため、事業の運営・推進、マネタイズの経験がありました。しかし、いざ人財育成側に回ると色々な課題があることに気付きました。」

■導入の背景

貴社にプロデュース・シンキングを導入していただいてから今回で5期目になります。システムの受託開発では、ある種納期やゴールが見えていますが、新規事業は正解がないので、育成手法は大きく異なるのではないかと思います。

栗藤氏:「企業としては、成長のため次のビジネスモデルを考えなければいけないのですが、当時、それを意識していたのは一部の人だけでした。組織全体として、新規事業が生まれにくい状態だったと思います。

人財育成の方法は決して研修だけではありませんが、研修がやはり最もスムーズです。しかし、一般的に研修では方法論やメソッド、手順に目が行きがちで、受講後は自分次第ということが多く、いわゆる研修が研修で終わってしまうことが課題と言われます。

プロデュース・シンキングでは、“スキル”だけでなく、“マインド”や事業の手前の着眼点“ビューポイント”が重要であると謳われており、他社と明確に異なっていたことが、導入の決め手となりました。」

時間の過ごし方や物事の捉え方にも関係するので、これまで「OSをアップデートしよう」というテーマで研修を実施してきました。“マインド”“ビューポイント”のアップデートは武器になると思っています。

栗藤氏:「実は、今では「OSをアップデートしよう」というキーワードが経営層にまで飛び交うようになりました。OSがアップデートされないとアプリケーションが動かせないように、マインドはスキルの土台になると思います。元々、社内での共通言語を作りたいと思っていたのですが、プロデュース・シンキングを導入したことで生まれた副産物だと思っています。

さらに、導入の狙いではあったのですが、徐々に新しいことを始める人が出始めています。事業創出、共創事業に関わる社員の中で、プロデュース・シンキング受講者の割合が増えてきたため、共通マインドが醸成され始めています。」

とても嬉しいことです。また、今回5期生の自己紹介で、過去の受講生から紹介を受けたという方がいて、連鎖していることが実感できたのは嬉しかったです。

栗藤氏:「受講生も100人程度になり、受講生同士が繋がって小さなコミュニティ化してきています。社員が10,000人もいる会社なので、あくまでまだ点の段階で連鎖・循環という意味では正直まだ足りていませんが、粛々と既存事業をやっている社員と違う視点での取り組みが見られるようになってきました。

そもそも人財開発はITスキルやノウハウのように単年で大きく成果・変化が出るものではありません。ヒューマンスキルやマインドは時間をかけて一定数以上が変化しなければ、組織全体が変わらないため、最低でも3年間は取り組んでみないと良し悪しはわからないと考えています。」

今年が導入3年目で、ターニングポイントになりますね。これまで取り組んできたことを活かしてどうすべきかを模索したいと思っています。

栗藤氏:「今回の5期は、完全手挙げ制(受講者本人の意思による受講)にしたことで、モチベーションのベクトルが近いメンバーが集まっていて、いいスタートが切れたと感じています。我々企画者は必要な研修だと考えているのですが、現場ニーズと合わないこともあり得るので、正直、完全手挙げ制は緊張します。しかし結果的に満席となり、また地域エリアや営業スタッフなど、想定外のメンバーが参加してくれたことは新たな発見でした。今後、育成側の人間として私がやるべきことは、社内の隅々まで、プロデュース・シンキングの認知を拡大させることです。」

■導入の狙い

元々プロデュース・シンキングを導入することで、社員の方にはどのようなことを得てほしいと思っていらっしゃいましたか。また、その実感はいかがでしょうか。

栗藤氏:「一般的な研修のように表層的なメソッド・定型スキルを受け取って帰るだけではなく、プロデュース・シンキングを通じて、スキルを活かすためにマインドや振る舞いをどのように変えるべきか、まず講座の中で1回、自分なりに考えてもらい、各自の現場で2回目に取り組んでもらう。このきっかけが、プロデュース・シンキングだと位置付けています。裏側の“なぜ?”というコンテクストを考える機会にしてほしいと思っています。

もちろん、講座の中で最低限知っておいてほしい座学知識もありますが、事業の場にどう繋げるかが最重要です。その第一段階として、新しいチャレンジや事業開発への参加など、行動変容が見えればいいと思っています。チャレンジは失敗が多数だと思いますが、期待通りにいかなかったことを通じて学ぶことで、今までと違うアプローチをするきっかけになることを期待しています。

過去の受講生から新たなチャレンジが生まれるなど、徐々に変化を実感しています。HR領域の研修ではなく、事業創出の現場からのアプローチなので、プロデュース・シンキングは、私の方針とも親和性が高いと思っています。」

他社の研修を研究した際に、HR部門主体の研修ではなく、事業開発分野での研修は稀有だと感じました。その点がプロデュース・シンキングとHR部門の研修との違いだと思っており、そう感じていただけているのは嬉しいです。

栗藤氏:「プロデュースを体系化した研修は取り組んでいる人がいないので、価値の塊です。8回に分割はされていますが、ストーリーがあり、学ぶ順番が最適で、講座としての価値が高いと思っています。

社内で新規事業開発の議論をしていると、“0”から“1”を作る議論になってしまいますが、“0.1”の概念があると言い切ってくれているのが助かります。“0”からの創出だとセンスの話になってしまうのですが、“まずは0.1の種を見つけましょう”と仰ってくれるので、議論が前に進むのです。」

■来期以降に期待すること

プロデュース・シンキングも3年目の節目の年になります。今後、期待されていることをご教示ください。

栗藤氏:「金田さんと一緒に何か事業を起こす社員が出てきたら嬉しいと思っていますが、まずは事業の“0.1”部分が見えていても、なかなか進捗していない案件を育成の場としてご一緒いただくなど、段階を経る必要はあります。

例えば、現場伴走と教育的な取り組みの2種を用意して並行して実施することもできると思います。プロデュース・シンキング受講生がリアルテーマをもって実現化に向けて動いたり、金田さんに現場の案件に入っていただいて、過去の受講生が改めて一緒に学び直しをしたりするなど、どのようなやり方が当社にマッチするのかを模索していきたいです。」

プロデュース・シンキングを実践で活かすのは理想です。伴走形式はもう一つのアウトプットの形であり、今後メソッドを組み直して拡張する余地はあると思います。実践をベースに、共にパートナーやクライアントを相手にできるといいかもしれません。

貴社では、ITスキル、インクルーシブデザイン、ファシリテーション、グラフィックレコーディングなど多数研修を実施されていますが、それらを線で結び、事業開発の中で統合的に活かす土台は、プロデュース・シンキングが担えるのではないかと思っています。

栗藤氏:「私の中でプロデュース・シンキングは、共創人財の育成研修においてコア研修の位置付けです。メンター制度で成長できる人もいれば、メソッドだけ教えて自分で統合できる人もいますが、何から始めるべきかわからない社員には、最初にプロデュース・シンキングをオススメしています。

私は、プロデュース・シンキングとは?の概念定義はあえてしなくていいと思っています。簡単な言葉で表せるものではないし、コンテンツとして身に付けて終わりというものでもありません。いい意味でぼんやりしていて、プロデュース・シンキングの講座を受けて考え方マインドがアップデートされた上で、メソッド寄りの研修を見つめ直してもらえればいいと思っています。」

非常にありがたいお言葉です。現場にOJTで入る形であれ、共創で事業を作る形であれ、あくまで教育制の担保は絶対テーマです。どのようなプロジェクトでも適応できる人を育成し、再現性ある事業開発ができる人財へと育成することは我々のミッションだと考えています。現状の型は基礎としつつ、それに囚われずにミッションを達成できるように今後も伴走できれば幸いです。

■プロデュース・シンキングとは?

プロデュースシンキングとは、事業開発プロデューサーの能力開発を体系化した独自メソッドです。

これまでは組織を中心に事業が創造されてきましたが、今では個が個と繋がることで生まれたプロジェクト、いわゆるPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)から事業が創造される時代になりました。プロジェクトが中心となった新規事業開発の現場において、企業人・個人問わず、プロジェクトを発起する前から寄り添い、発起後も推進していける “事業プロデューサー”の存在が大きく必要とされています。
プロデュース・シンキングでは、既に企業や自治体、大学等にご導入いただくなど、プロデュースの事象を集めて事業プロデューサーの考え方や行動を分析し、企業研修・教育・啓発・実践に活かすことで事業プロデューサーを育成し、世の中にある幾多のプロジェクトに対して、プロデューサーを中心に事業を成果へ導くきっかけとなることを目指しています。

プロデュース・シンキング・ラボ公式HP